40歳よりも前に無月経が続く「早発閉経」は、自然妊娠が非常に難しいといわれます。しかし近年では研究が重ねられ、新しい治療法も登場しています。今回はこの早発閉経について、原因と症状、そして気になる治療内容についても詳しく解説します。
早発閉経とは|40歳未満の無月経、もう排卵はおきない?
一般的に閉経の年齢は50歳前後ですが、卵巣内で卵子のもととなる細胞(原子卵胞)が減少し、40歳よりも前に無月経(月経が3カ月以上来ない状態)になることを早発閉経(早発卵巣不全)といいます。卵巣からのエストロゲンの分泌が非常に少なくなっていることから、排卵が止まって妊娠が困難になるだけでなく、全身の健康にも影響があります。
なお、早発閉経には2つのタイプがあります。
- 完全に月経が止まり、卵胞がすべて消失してしまうため排卵はない
- 少ないながらも卵胞が存在し、発育や排卵が起こる
早発閉経は不妊の原因のなかで比較的多くを占めるため、早発閉経の患者さんの多くが(1)のように考えてしまうかもしれません。しかし、このどちらであるかを判別することは非常に難しいものです。
100人に1人が早発閉経を発症?考えられる原因
40歳未満の女性では100人に1人が早発閉経を発症するというデータも出ていますが、早発閉経の原因はほとんどわかっていません。一部には遺伝性のもの、免疫疾患、外科的な手術や治療の影響、生活習慣など、さまざまな原因が考えられています。
▼早発閉経の原因と考えられるもの
遺伝性 |
染色体や遺伝子の異常による発症 |
医原性 | 卵巣摘出手術、放射線治療、化学療法などのがん治療による発症 |
自己免疫疾患 | 橋本病(甲状腺炎)、白斑、重症筋無力症など |
感染症 | おたふくかぜ(ムンプス)、サイトメガロウイルスなど |
生活習慣ほか | 喫煙、糖尿病など |
更年期とは違う?症状と経過
まず、初期症状としては月経不順が起こり、進行すると無月経に。早発閉経は卵子の数が大幅に減少することから、妊娠することが非常に難しくなります。そして月経が止まるだけでなく、のぼせ、ほてりなどホットフラッシュといった、一般的に更年期症状として知られるものと同じような症状があらわれる人もいます。
そのほか、エストロゲンの長期的な不足により、骨密度の低下や動脈硬化などの恐れもあります。あらわれる症状には個人差がありますが、以下にまとめますので参考にしてください。
- 顔のほてり、のぼせ、発汗などホットフラッシュ(更年期症状に類似)
- めまい、頭痛、動悸
- 肩こり、腰痛、冷え、疲れやすいなどの全身症状
- いらつき、情緒不安定、不眠、意欲低下など気分障害
- 骨密度の減少、骨折しやすくなる
- 高脂血症などの代謝異常
- 動脈硬化など血管異常
- 膣粘膜の乾燥・萎縮
- 冠動脈疾患、脳卒中リスクの上昇
健康な女性であっても月経不順が起こることはあるため、軽くとらえてしまう方が多いもの。しかし、もしかしたら早発閉経のサインであることも考えられます。たとえ1ヶ月くらいの遅れでも、何度か続くようなことがあれば、まずは病院を受診してみましょう。早期診断、早期治療が何よりも大切です。
早発閉経の診断基準と検査方法
これまで正常に月経があった40歳未満の女性が、妊娠をしていないのに無月経(3ヵ月以上の停止)となった場合、早発閉経を疑います。検査は経腟超音波(エコー)検査と採血にて行い、血液検査ではFSH(卵胞刺激ホルモン)とエストロゲン(エストラジオール)の値を見ます。
▼検査の所見と診断基準
経腟超音波検査(経腟エコー) |
子宮の萎縮がある |
FSH(卵胞刺激ホルモン) | 40mIU/mL以上の高値である |
エストロゲン | 10pg/mL以下の低値である |
参考:日本医事新報社「早発閉経」検査所見
妊娠できる?早期閉経治療の今と未来
「閉経」と聞いて、もう妊娠できないと落胆される方が少なくないかもしれません。確かにかつては、早発閉経の場合は自身の卵子による自然妊娠は非常に困難で、卵子提供による体外受精という選択肢しかありませんでした。
しかし前述のとおり、早発閉経であっても卵巣には原始卵胞が存在し、発育や排卵が起こる可能性がゼロではありません。
妊娠を希望するかどうかで治療方針は変わっていきますが、どちらであっても更年期症状の軽減と全身に及ぶ疾患予防を目的とした治療を行います。原則的に、一般的な閉経年齢である50歳前後まで継続します。
▼早発閉経のおもな治療内容と目的
治療内容 | 期待されること |
エストロゲンを投与する ホルモン補充療法(HRT) | ・のぼせ、ほてり、発汗などの症状緩和 ・骨粗しょう症のリスク軽減 ・心筋梗塞や脳梗塞など重篤な疾患の予防 |
ゴナドトロピン療法 (妊娠を希望する場合) | ・卵胞の発育促進、排卵誘発 |
自分の卵子で妊娠できる可能性も。「卵胞活性化療法」の研究と成果
近年では原始卵胞を特殊な薬を用いて刺激し、成熟させて体外受精を行ったうえで体内に戻す「卵胞活性化療法(IVA)」という新しい治療法の研究が進んでいます。2013年に開発された治療法のため、統計学的な成功率はまだ算出されていませんが、ごく一部の施設でのみ実施されています。
参考値となりますが、卵胞活性化療法を実施した施設の治療成績を紹介します。
- 早発閉経の患者さんの約50%に、卵巣内の卵胞を確認。
(卵子を作り出す治療法ではないため、卵胞が残っていない場合には効果がありません) - そのうちの約64%に、卵胞活性化療法による卵胞の成熟を確認。
つまり早発閉経の患者さん全体のうち、成熟した卵子を得られる可能性がある方は約25%という計算になります。
今後もさらに研究が重ねられ、早発閉経の方の妊娠率が飛躍的に向上することが期待されている治療法といえるでしょう。